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2022.07.06 メディア掲載記事

暗号資産を総崩れにするロシア「ネット遮断」リスク。ビットコインは安全資産になりえるか?(執筆:山本仁実)

◇◇本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2022年3月20日)◇◇
   https://www.mag2.com/p/money/1168556
   ※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

ウクライナ侵攻が始まった日、全世界の株価のみならず、暗号資産価格も下落した。本来は金(ゴールド)と並び資産の退避先となることを期待されるビットコインですら、大幅安が続いている。ビットコインの市場規模は、まだまだ世界の情勢不安や通貨不安を受け入れるに足りるものではなかったと、この展開を見て思い知らされた。

●暗号資産(仮想通貨)は「有事の資産」になれたのか

ロシアによるウクライナに対する軍事行動が始まって、約3週間が経過した。状況は依然として混沌としており、その影響は世界全体に波及している。

あの日、全世界の株価のみならず、暗号資産価格も下落した。本来は金(ゴールド)と並び資産の退避先となることを期待されるビットコインですら、大幅安が続いている。ビットコインの市場規模は、まだまだ世界の情勢不安や通貨不安を受け入れるに足りるものではなかったと、この展開を見て思い知らされた。

昨年末以降、下落を続けていたことも影響したが、上昇を続ける金の価格と比べると、その差は歴然である。もし仮に、今この状況でビットコイン価格が上昇するような局面が来れば、それは新しい価値の保存先としてビットコインが果たす役割を認められたことを意味する。しかし現実には、そんな状況になったとは言えない。

ビットコインの誕生以来、私たちは初めて、有事の資産とは何なのかを目の当たりにしている。金は今も、世界の不安を受け止めている一方で、暗号資産は、この先どこに向かうのだろうか。

●「マイニング大国」のウクライナとロシアが不安定に

暗号資産価格に対する中長期的な影響を考えると、暗号資産のマイニングに割り当てられる計算量の行末にも注視したい。

中国国内でマイニングに対する圧力が高まった結果、一部のマイナーは東欧へと退避していた。中でもウクライナやロシアは、エネルギー価格の安さと寒冷地であるという条件によって、マイニングの拠点として好まれていた。

今後も両国にまたがる地政学的なリスクが増すことで、エネルギー価格はさらに上昇し、領域全体の安定性を欠くことになる。暗号資産価格が下落している現在の状況では、採掘成果物も値下がり、マイナーにとっては厳しい。

採算が合わなくなったマイナーが稼働を止めれば、計算量は一気に下落し、負の連鎖が起こる可能性がある。

●経済制裁による分断時の暗号通貨の存在

今後を考えるうえでやはり気になるのは、欧米や日本がロシアに対して実施している経済制裁の影響だ。

SWIFTからの排除などは、金融市場全体に与える影響が少なくはない。本来、国際的な銀行のネットワークを通じた基軸通貨の流通がストップするような状況は、ビットコインこそが本領を発揮する場面と言える。ロシアが積極的にビットコインを受け入れ、世界の経済との接点を保つ行動を起こすのかどうか、暗号資産業界としては注視していくべきだろう。

北米カナダでは、トラック運転手たちが新型コロナウイルスのワクチン義務化に反対し、デモを強行している。それに対する制裁として、デモ参加者の銀行口座が凍結される事態が起きた。そしてビットコインの需要は、必然的に高まる結果となった。

デモで訴えられたメッセージの良し悪しはここでは議論しないものとするが、制裁と、それに対する反応を見れば、まさにサトシナカモトが想定した事態が起きている。国家や銀行が個人の資産を凍結しようとした時、ビットコインが個人を守るのだ。

今ロシアで起きていることは、カナダのデモ参加者に対する制裁とは規模が違う。そのため簡単に比較することなどできないが、少なくとも経済制裁が長引いた場合には、ビットコインを始めとした暗号資産がロシア国民と世界の金融市場をつなぐひとつの選択肢になる可能性は否定できない。

世界情勢全体を考えれば、ビットコインが経済制裁の網の目をくぐり抜ける一助となることは望ましいとは言えない。それでも、サトシナカモトが提示した価値観のうえでは、個人の権利はいかなる状況でも守られるべきだとされ、少なくともビットコインは現時点で技術的にそれを可能にしている。

●分散化社会の負の側面を見せたロシアへの経済制裁

何者にも支配されない分散化社会に「負の側面」があるとするならば、世界的に協調した、異分子の排除ができないことがそれにあたる。中央集権的に急成長を遂げ、少数の企業が市場を寡占している「Web2.0」の世界では当たり前にできることが、できなくなる。

その構造が良い結果を生むのかそうで無いのかは、現時点では判断することができない。社会が変わる過渡期である今、混乱は続くことになる。それでも、ビットコインをはじめとする暗号資産が悪いものだという結論に至らないように、業界全体で果たすべき役割があると考えている。

経済も政治も、多様性を受け入れる余地はまだあるのだ。しかし同時に、その多様性の中に、独裁や一方的な暴力を許容する余地はあってはならない。尊い命や尊厳を犠牲にしてまで、私たちが今回目撃しているのは、互いを尊重し合う分散化社会の重要性だ。

●インターネットが分断される世界

この先の10年を考えるならば、誰もがインターネットのさらなる発展と、より自由で平等な機会の到来を夢見るものと思っていた。しかし今、ロシアはインターネットの分断さえも示唆している。その時、世界に起こる影響は大きすぎると言わざるを得ない。

ブロックチェーンの前提となるインターネットの公共性が損なわれる社会、物理的な相互接続が維持されない社会。それが現実のものとなると、想定外の事態がドミノ倒しに起こるリスクがある。

暗号資産に関して言えば、主要なブロックチェーンが一斉にフォークすることや、特定の仮想通貨資産が消滅してしまうような事態にもなりかねない。そんな乱暴な未来は、本当にやってきてしまうのだろうか。

インターネットの分断を回避するためには、人工衛星やドローンを利用した通信技術の普及や、国家の設置する壁を越えられるネットワーク技術の普及が急務となる。Blockstream社のように、すでに人工衛星でビットコインのマイニングを行う企業もあるし、SpaceX社のStarlinkのように衛星通信を民間に広く開放する企業もある。

これまでは実験の粋を出ないと思われていた研究開発事業が、突如として実利を伴う事業として際立ち始めた。

例えば宇宙空間での仮想通貨のマイニングは、地上でのそれを超える効率性が期待できるかもしれない。打ち上げコストや通信コストが下がり採算が合うようになれば、宇宙でのマイニングが産業として発展し、世界の分断を抑止する未来がやってくるかもしれない。宇宙開発は、もはや国防上の問題として国家に任せておくことではなくなる。民間で、あるいは「DAO(分散型自律組織)」を通じた有志の集まりとして、真剣に取り組む課題として選択肢に挙げる時代が到来した。

世界を分散化することには大いに賛成だが、これ以上、世界を分断させてはならない。あらゆる産業界が強調し、乗り越える手段を講じるべきだ。

●我々は議論を続けなければならない

今回の動乱の中、ビットコインの持つ本質的な価値を改めて再認識したのではないだろうか。

経済的に強い国がそうではない国に制裁を課したり、あるいは個人の資産を凍結したとしても、ビットコインは個人を守る。資産の保有に誰の許可も必要なく、移動を止める手段も無い。

しかし人類は、まだそれを受け入れる準備ができていないのかもしれない。暴力という最終手段が取られたときに、拳を振り上げる人を守る技術ともなる可能性が目の前にあるのだ。

現時点で取り入れられる解決策として、スマートコントラクトによる協調の制御と、トークンによるガバナンスの強化などが考えられる。一部のブロックチェーンでは、トークン保有者の合意やマイナーの合意により、特定の資産が剥奪されたり、制御下に置かれることはあった。

分散化社会を謳うブロックチェーンのエコシステムでもそれが起きるのだから、中央集権と分散化の議論に唯一の正解は無いと言える。

WEB3.0という言葉が急速に注目を集めているが、分散化された世界の実現には乗り越えていかなければならない課題がまだまだたくさん残されている。私たちはこれからも議論を重ね、前進していかなければならない。

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